ほげったけど一歩前進

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先生、 マジっすか! ウジ虫で糖尿病を治療するの?

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タイトルはふざけてますけど、真面目なハナシです。傷ついて壊死しそうな組織が、ウジ虫で再生するんです、ほんとうですよ。

岩波科学ライブラリー 岡田匡
糖尿病とウジ虫治療 マゴットセラピーとは何か を読んで。

だれもが糖尿病で下肢切断とは無縁ではない

2012年のデータですが、米国では糖尿病患者が2600万人いて、足の傷が潰瘍になり、感染をおこして下肢切断する人が何人いたと思います? 年間で7万人もいるとのこと。

日本でも糖尿病はいまや6人に一人がかかり得る病気だそうです。日本国内では下肢切断数の正確な記録数はないのですが、私たちには無縁であるとは言えない状況なんです。

英国の医学雑誌によりれば(2005年のデータですが)、世界のどこかで糖尿病のために30秒に一本の割合で下肢が切断されているそうです。

マゴットセラピー : ウジ虫で治療

マゴットセラピーとは、皮膚が潰瘍から壊死しそうになっている組織に、ウジ虫を這わせ、ウジ虫により壊死しかけた組織を再生させる治療法です。
そうウジ虫ですよ、ウジ虫。 あのハエの幼虫で、白くてクネクネする、あなたの知っているウジ虫です。

ただ、そこら辺のくみ取り式便所から湧いてきたウジ虫じゃないです。そこは間違えないで下さい。

医療用のハイテク設備で育てられた無菌性のウジ虫です。
しかも、科学的な根拠のない民間療法などでなく、岡山大学の倫理委員会で承認されて治療がはじめられた、医療行為としての治療なんです。

今も実際に行われています。

著者である医師も最初はとまどい

著者は医師であり、自身もこのウジ虫による治療、マゴットセラピーを行なっています。本書にもその様子が描かれており、著者自身も当初は、かなりの戸惑いもあったようです。

 

本当に私がここで治療をしていいのだろうか。

注文した翌日に岡山のジャパンマゴットカンパニーから小さなクール便が送られてきた。箱を開けてみると、半透明の小さなプラスティックケースが保冷剤と無菌性を示す証明証とともに入っていた。ケースの中には、100匹を超える2ミリ前後の白い生き物が見えた。

しばらく室温におくと、岡山の会社でみたようにゆっくりと動いだした。

あの時の単なる見学という傍観者からいまは治療者へと立場が一変した。その目で見ると一匹一匹はあまりにも小さく頼りなげである。不安感は一層募った。

しかし、すでにサイは投げられた。逃げ出したい気持ちをおさえ、自らに無理矢理言い聞かせた。

とにかくこの虫といっしょにやってみるしかない

 (p8-9)

そりゃあそうでしょうね。ウジ虫ですよ、ウジ虫。著者自身が実際に治療を行う前に、すでに岡山大学では複数の例で実施されているとは言え、やはり心理的な抵抗ってありますよね。

もしろん、治療にあたる医師側だけでなく、治療される側の患者にもあったようです。

ただ、患者側にすれば、このウジ虫治療を選ばないと、もうあとは下肢の切断しかない状況であったため、やむにやまれぬ決断ではありましたが。

なぜ傷が治るのか

壊死しそうな組織が治る理由を簡単に説明すると以下の仕組みです。

 

皮膚潰瘍ができるとその上をしばしば白色調もしくは黒色調の壊死組織が覆う。壊死組織がある限り皮膚潰瘍は治癒しない。

壊死組織が溶けるか、人工的に取り除いてなくなれば、肉芽組織が形成される。次のこの表面を表皮細胞が遊走して覆うようになる。すると肉芽組織が徐々に縮んで上皮化し、最後に瘢痕化して治癒する。

その際、傷が治る過程ではサイトカインなどのさまざまなタンパク質が、お互いにメッセージを出しながらネットワークを作って修復作業を行なっている。このネットワークが、交通渋滞のように行き詰まった状態が慢性皮膚潰瘍である。

絡まった糸をほぐすには、まず表面を覆っている壊死組織を取り除くこと(デブリードマン)、次に細菌の感染を制御すること、最後に肉芽組織を作ることが必要である。

図らずもマゴット(マゴットとはウジ虫の意味 筆者注)ん小さな体には、この工程を成し遂げる能力、すなわちデブリードマン作用、抗菌作用、肉芽組織の形成促進作用が備わっている

 (p87-88)

本書にはさらにもっと詳しい説明もあります。

セレンディビティ : どうやって発見されたか? 

勘のいい人は気づいたかもしれませんが、20世紀初頭、米国人医師、ウイリアム・スティーブンソン・ベア氏が、戦争で負傷した兵士を治療しているときに偶然発見したそうです。

  • 負傷した兵士の包帯をはずしたら、傷の上にウジ虫が群がっていた
  • 「ゲッ!」と思いながら、傷の洗浄のためにウジ虫を除くと、傷が綺麗に治りつつある場面をなんども経験した。
  • 「なんでだ?」と疑問をいだき、「もしかしら、ウジ虫が、、、」と考えた

しかし、そこからです。そこらへんにいるウジ虫では、現象が再現しないため、無菌ウジ虫を苦労して作りだし、実験を経て、ようやく成功するわけです。

最初に兵士の治療してから無菌ウジ虫で本格的な実験を開始するまで11年かかっていました。

既成概念にとらわれない

たしかに「ウジ虫で治療」と聞くと、イメージ先行で、聞いたとたんに「ゲッ!」となってしまいます。

それは筆者のような世代では、くみ取り便所の便器の坂を徒党を組んで登ってくる記憶があるからかな。「あのウジ虫?」って思ってしまいます。

おまけにその登ってくるウジ虫をおしっこで下へ流し落とすのが、当時の筆者には、また楽しい遊びでもありましたけど。\(^o^)/

もしかして、いまの30代以下のひとたちってトイレでウジ虫なんてみたことないのかも知れんけど。みーんな水洗トイレになってしまったもんね。もしかして、トイレといえば、水洗トイレがあたり前なのかな。

ところで、やっぱり既成の概念やイメージにとらわれずに問題解決にチャンレジすることは大事ですよね。頭ではわかっていてもナカナカできないんですけど。

この治療法を発見した、ウイリアム・スティーブンソン・ベア氏のように、柔軟なアタマを常に持ち続けて、問題を解決していきたいと思いますね。